「いらっしゃいませ…!」

この男は、ここ最近俺の店に頻繁に訪れるようになった客だ。
確か・・・今現在の、総理大臣の秘書とやらをやっている。
TVから流れるニュース映像の中で、何度か総理大臣の傍に付き従うその姿を目にした事があった。
名は――金剛寺頼光・・・・・・確か・・・そういう名だった。
見るからに坊ちゃん育ち。身に着けているモノ全てが一流品だ。
おそらく、俺の店でも一・二を争う上客だろう。
下世話な話だが、見目形も整っている。肌の肌理が細かく、美しい。どちらかと言うと色白で…女顔である。年齢も、
随分とやり手であるという話を聞くのに、まだ若いらしい。
ただその眉間に作られた縦皺だけが、この男の容姿に唯一つけられるだろう難点であるように思われた。

「お客さん。今夜も疲れてらっしゃいますね・・・。まず何から握りましょうか?今日はいいヒラメが入ってますよ。・・・と、
その前に飲み物はいつも通りビールでよろしいですか?」

男は一言「ああ・・・」と呟き、寄せられている眉間に指をあて、何度かマッサージをする要領で上下に擦る。
余程疲れているらしい。どっかりとカウンターに乗せられた両腕には力が無く、またその背にも、TVで見るような覇気
が見当たらなかった。

「お任せでいいんですかね?」

聞けばコクリと頷くだけ。有名なその顔をもっと見てやろうと。俯いたままの客の顔を覗き込もうとした矢先・・・

ガラリと乱暴に店の扉が開いた。

「邪魔するぜ」

何とも大柄な男がやってきたなと、そちらに目を遣れば・・・なんて事はない。ここいらでも有名な伊達組の組長が、子
分も引き連れずにやってきたのだった。
気前のよい上客ではあるが、ここ最近はご無沙汰だった。またどんな風の吹き回しか?・・・と訝しくも思いながら、笑
顔を作る。
よく映る海松色の紡ぎを粋に着こなし、いい男っぷりは変わる事がない。自然と見惚れて、思わず嬉々として声を掛
けてしまうのだ。

「いらっしゃい!今夜はお一人で!?珍しいですな」

組長に一度会釈し、目の前の客に視線を戻すと・・・。
何と、よっぽど具合が悪いのか・・・白い顔を更に青冷めさせて震えている。

「お・・・お客さん!大丈夫ですかっ・・・?」

カウンターから身を乗り出すようにして、客の肩に手を掛けようとした・・・その手を、あの伊達の組長に掴まれて呆然
とする。

「は・・・?!」

「いいんだ、いいんだ。こいつは知り合いでな・・・。いっつも俺の顔を見ると震えちまうんだ。なぁ?頼光・・・」

含んだような笑い。意味深な空気。
流石にこれは何かある、と。俺は即座に気付いて身を引いた。

「なんで、お前がこんな所に居るっ!」

先ほどまで震えていた頼光という男が、弾ける様に面を上げ、伊達の組長に食って掛かる。
目の前のこの組長に食って掛かれるという事は、相当にこの二人は親しい仲だ・・・。
それだけ思って、俺は目の前のシャリに集中するフリをした。
しかし耳はまるで、昔あった、子象が主人公のディズニーアニメ。ダンボのような状態で・・・

「別に・・・鮨を食いに来た、それだけの話だぜ・・・。お前こそ、何をそんなに突っかかる。疲れてんのか?」
「なっ・・・!誰の所為で、ここまで疲労困憊していると思っているんだっ!?」
「フフッ・・・桃の所為だろ?お前・・・こき使われているもんな」
「それだけじゃあないっ!」
「まるで俺の所為だ。と言わんばかりの目つきだぜ。そう、睨むなよ・・・俺は、仕事で疲れたお前さんの、安眠の手伝
いをしているつもりだがな・・・」

最後の語尾を幾分甘い調子におとして、まるでイライラと青筋を立てる男の耳朶に、キスせんばかりに近づける。
もちろん俺は、仕事に没頭するフリをしたままだ。だが、背中には汗が滲んでいた・・・。
新たな事業を起こす前に、厄介ごとに巻き込まれるのだけは御免被りたい。
東京の店が軌道に乗って、これから全国規模に回転寿司のチェーン店を開く予定だ。
こんな・・・関東一の組長と・・・。現役総理大臣秘書の・・・スキャンダラスな関係に巻き込まれてたまるものか・・・!
心の中でそう毒づきながら、冷静な頭で更に思う。
この二人を利用すれば、更に店は大きくなるだろう・・・。
幸い、本日客の入りはあまりよくない。この二人の傍に客は居ない・・・。俺以外に、二人の遣り取りに気付いている
者も居ない。




俺は下っ端のアルバイト店員に、外の暖簾を外すよう指示をした。



今夜は・・・この二人の為に、店は貸切だ。お二人さん、心ゆくまでお好きにどうぞ・・・!絶対に言葉にはしないが…

胸でそう呟きつつ、二人の目の前に一級の値がつくネタばかりを並べたててやった。







■赤坂の鮨屋Ⅱ





■言い訳

「坂巻祭」だけど・・・ここは愛好会なので、やはり伊達頼で♪伊達、頼光を狙い撃ち状態です(爆)
坂巻君も苦労性だね~(笑)
その細やかな心遣い・・・。きっと新しい事業を始める際には、この二人が協力してくれるだろうさvv
うわははは!(←ただのバカ一匹)



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