『永田町ラブロマンスⅳ』
窓際で暫くの間、二人でグラスを傾けた。
月明かりを楽しみ、本日の成果にも上質の酒にも酔って・・・カチリと音を立て、グラスを合わせもした。
俺は上機嫌だった。
剣の役に立てたこと以上に、己の立てた計画通りに全てが上手く運んだ。その事に酔いしれていたのかもしれない。
だが、そんな満足も剣の前では泡と消えるのだ。
グラスに満たされた酒が空になる頃。
剣はものも言わずに俺を机上へと押し倒してきた。
初めての事では無い。忙しい執務の合間に、剣に請われて身体を求められた事が今までに何度もあったのだ。
まったく最初という訳でもないので、俺はそれほど抗いもせず、剣が望むままに机上へと腰を下ろす。そして笑った。
「飲んだ後に早速か…?!」
互いに意味深な笑みを浮べて、フフ…と口の中で笑いを零す。
空のグラスに少しばかり残った、アルコールの雫が月明かりを受けて、宛ら宝石のような光を含んでいた。
それに視線を遣りながら、悪戯な桃の指をそっと制する。
ネクタイを緩め、シャツのボタン数個まで許しはしたが、その後の指の侵攻を俺は許しはしなかった。
寛げられた首筋に、桃の顔が寄せられて、唇が這う。
ゾクリとした感覚にも俺は耐え、呆れるような口調で桃を嗜めた。
「おいおい…っ、がっつくなよ。シャワーくらい使わせてくれ」
笑いながら言ってやった。もちろん、シャワーを使わずに抱かれる事などあってはならない事だ。
隠したい事が容易にバレてしまう。
ところが…
「別にかまわんさ。誰かの匂いがついていたところで…お前はお前だ。」
俺は己の耳をまず疑った。
強張った眼差しで見つめ上げた桃の顔は………。そう、恐れていたそれで……
何も隠す事など出来はしないのだ。この男の前では……。
「今日一日可笑しかったよ、笑いを堪えるので精一杯だった。」
桃の言葉は、己が耳を疑うようなものばかりで……身体を支える為に置かれた両の手を、机から今すぐ離し、この桃
の言葉を拾い上げる左右の耳を塞いでしまいたかった。
だが、人間の身体とはおかしなもので、気持ちとは裏腹に身体は凍ったように動きを止める。
忌まわしい。桃の毒のある言葉を身体が受け止め続けるのだ。
「必死に隠すのはかまわんが、今更シャワーを浴びた所で、お前の所業が完全犯罪には成り得ないということくら
い。自分自身でよく分かっているんじゃあないか?」
馬鹿だなぁ…。と俺の耳元で囁いてクスクスと桃は笑いを零す。
固まっていた俺の身体が、震えを帯びる事により、その動きを序所に取り戻す。
「可愛いと言ったらいいのかな…?!俺にバレるのを恐れていた?必死に隠して振舞う様が、可愛らしくて仕方なか
ったが……それが原因で、このラヴ・アフェア(情事)を拒絶するなら……俺は面白くないな」
この男は・・・・・・と見上げた。こういうのを凝視するというのだろうか・・・剣の瞳から、視線を外すことが出来なかった。
剣の指が伸び、俺の緩めたタイを軽く引き抜く。ボタンが外されたシャツに指先が掛かれば、あっという間に布の裂け
る音が耳に届き、スラックスに入れ込んだシャツ裾の、その際まで露にされた。
隠していた肌が剣の目の前に晒される。
窓からの月明かりだけで、肌のどこに何を発見出来るというわけでもないのに、剣の指は的確に前の男の痕を追っ
た。
最中。必死の思いで痕跡を残すまでの愛撫は避けていたはずなのに。
まるで闇夜に蛍光して映っているのか、剣の指先は正確無比に、いやらしいナメクジの筋のように、這った男の舌跡
を辿るのだ。
「ァっ・・・!」
思わず小さく声が漏れる。
溜まらず眼を閉じ、下を向いた。
「ふぅん・・・・・・そうやって感じたのか?」
容赦のない言葉が俺に降りかかる。
桃は一体何をしたいというのか・・・?何を言いたいのだろうか・・・?
俺は考え続けたが、ただ身が震えるばかりであった。
「感謝しているよ、頼光・・・・・・お前は俺にとって最高の片腕だ。何しろその身を贄にと、あんな妖怪崩れの古狸に自
らを差し出す殊勝さを持っているのだから。」
残酷な言葉と共に桃の口付けが下りてきて、何かを反論しようとしていた俺の口唇を、長く長く塞いでしまった。
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