□頼光×獅子(桃×獅子含む)な話。「独り占め」











独り占め




何てことだ・・・この親子は・・・・・・。
俺は絶句していた――。

俺も大して自慢できる生い立ちではないが・・・この獅子丸ほどは複雑ではなかっただろう・・・。
政治家の家に生まれ落ち、幼少のみぎりより世俗の垢に塗れて育ってきた。
だが・・・あんな女好きな狸親父ではあったが、それなりに父親らしいところもあったものだ。

しかし目の前の獅子丸は・・・。

実の父親の狂気染みた恋情に翻弄され、白い胸元には・・・その痕跡である、無数の花弁が散らばっている。
俺は、その狂気に彩られた情事の・・・後始末をするだけ――。それが俺に課せられた使命であったのだが・・・
それだけでよかったはずなのだが・・・。
この姿には、少なからず胸が痛んだ。



剣の幾つかある隠れ家のような別邸マンション。
そこに剣は、度々獅子丸を連れ込んでいた。
そして昨夜も・・・獅子丸は剣に抱かれたようだ。早朝からの審議の為に、剣は早々に部屋を出た。俺は、一人残さ
れた獅子丸の後始末をしてやる。その為だけに・・・朝早くからの剣の呼び出しに応じ、俺はこのマンションまで脚を
運ぶのだ。
もう・・・その始末も慣れたもんだ。・・・いつもの事なのだから――。

だが・・・昨夜の情事はかなり激しかったらしい・・・。
獅子丸の憔悴具合だけでなく、その身体に残された傷跡で、充分にその事を理解出来た。

身体にこびり付く情事の跡を拭いながら、意識を失ったままの獅子丸の顔を覗き込む。まだ、幼さの残る顔立ち。疲
れきって、可愛らしい寝息を立てている。
出来るだけ起こさぬようにと、手早く後始末を済ませ、バスタブに熱い湯を張ってやる。湯が張り終われば、優しく目
覚めさせてやろう、とも思う。
どこか獅子丸に対して、労わりにも似た気持ちが、最近になって生まれていた。
おそらく乱暴な扱いをされたのだろう…下肢に見受けられる裂傷に、俺は少しばかり頬を歪ませて苦笑した。
塾には今日は行かずともいい、ここでゆっくり養生させてやろう・・・。俺は勝手に判断する。一度や二度ではない…。
男塾の教官には、剣の名を出すだけで大抵の事が了承される。そっちの連絡も、既に手慣れたものだった。



湯が張り終わる頃・・・獅子丸は自ら目を覚まし、ゆっくりとベッドからその身を起こした。
気だるげに長めの前髪をかき上げながら・・・こちらにちらりと視線を飛ばす。
俺と目が合うと、決まって獅子丸は視線をスイと逸らすのだ。
今日も例外に漏れず、獅子丸は俺から目を逸らした。

「風呂に入って、すっきりすればいい・・・」

あっさりと、ただ要件だけを獅子丸に伝える。いつもの二人のやりとりだった。そうしていつも獅子丸は、従順に俺の
指示に従うのだ。今日も・・・獅子丸は、フラフラとバスルームに向かって歩き始めた。
珈琲の準備を始める、この俺の方を、ただの一度も見ようとはせずに・・・。









用意された遅い朝食を、獅子丸はものもいわずに食べていた。
俺はその姿を、マホガニーのテーブルの向かいから、ただ静かに見ているだけだった。

突然・・・

ガッシャーン!

凄まじい音を立てて、テーブル上の食器が床の上で粉々になり、はじけ飛ぶ。
白い器に盛られた瑞々しいサラダも、辺り一面に飛び散っていた。
先程まで湯気を立てていた珈琲は、上質の絨毯に早速黒い染みを作り上げ、イタリア製のジノリの白いカップは持ち
手が欠けて、所在なさげに転がっている。カップの相棒…白いソーサーは、その身を二つに変えていた。

「!!」

咄嗟の事で、言葉が巧く口をついて出ない。獅子丸の右手がテーブル上の食器をなぎ払うのを、止めることも出来な
いで、ただ呆気にとられて見ているだけだった。
獅子丸は正面から俺を睨みつけ、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。

「どうした?」

やっと口をついて出た言葉の、何と素っ気無いことか・・・。もっとマシな台詞があっただろう・・・と、胸中で毒づく。
単調に投げかけられた俺の台詞に、獅子丸の瞳が幾らか怒りの色を濃くした気がした。

「あ・・・あんた・・・。何で、そんなに平気なツラが出来るんだよっ!」

怒りに塗れていながらも、その言葉は少し哀しげで・・・
俺は獅子丸を静かに見つめたまま、心の中では動揺していた。
獅子丸の激情を目にするのは、これが初めてのことなので困惑する。職業病とは悲しいもので、何とか言ってやりた
いなどと、心中でオロオロとしながら思うのだが・・・この氷の面には、己の気持ちは片鱗も浮かぶ事が無い。
何の反応も見せないような俺の様子に、獅子丸のイラつきが徐々に増してゆくのが、俺には手に取るように分かっ
た・・・。


俺を正面から捕らえる瞳は、今、怒りに震えていた。
本当は待ちに待った瞬間であったのだろうが・・・思っていたよりも剣呑な視線に、俺の胸が僅かに痛んだ。
正直・・・そのブルーの瞳には、明るく揺れた状態で見つめられたかった。
こんな・・・怒りの焔に染まる様を、期待していた訳ではない。
結局のところ、俺は獅子丸の問いに答えてやる事が出来ないまま、散らばった食器の破片を片付け始めていた。も
のも言わず、飛び散ったサラダを片手で摘み上げる。
嫌な沈黙が室内に流れていた。

「珈琲を入れなおそうか・・・」

我ながら・・・なんと間の抜けた、馬鹿馬鹿しい台詞を吐くのだろう、と思う。だが、そんな事しか思いつかなかった。
獅子丸の云わんとするところは、剣との異常とも言える関係についてだろう・・・。それなら、俺が何を応えてやれると
いうのか・・・何を話したところで、応えたところで・・・突き放し以外の何ものにもなりはしない。

もう一度獅子丸に視線をやった。

同じ問いを繰り返す。珈琲を飲むか・・・と・・・。獅子丸が答えないのを知った上で、俺は同じ事しか問い掛けることが
出来ない。もし饒舌になれば・・・それは全て憐憫の情を湛え・・・よりいっそう獅子丸の自尊心を傷つけることだろう。
それに・・・
思わず、この乱れてしまった心の内を・・・うっかりと明かしてしまうかもしれないからだ。


重い音を立てて、部屋を隔てている扉が閉まった。


獅子丸は何も言わずに、部屋から出て行った。









それはただの傲慢かもしれなかったが・・・
俺という存在は、剣桃太郎の最も身近に在れる、最も有能な秘書だと思っていた。
故に剣も、俺の言葉には耳を傾けるのだと・・・そう信じて疑いはしなかった。


今思い返せば、幾らかの嫉妬があったのかもしれない・・・。類稀なるカリスマ性を持つ剣という男を独り占めにした男
に―――
容認する訳にはいかなかったのだ。現役総理と、関東一の力を誇示する暴力団組長との特殊な関係を・・・。


そこに愛があったとは、到底考えられなかったが・・・・・・・
剣の息子、獅子丸に対しての異常とも言える執着は、否応にも見て取れた。
俺は・・・最もしてはいけない・・・賭けに出てしまったのかもしれない――
剣自身をどうこうするつもりなど、本当に微塵もなかったが・・・政治生命の為などと銘打った、最もらしい言い訳の中
で剣という魅力溢れる男を、己の身の傍に縛り付けておきたかったのだ、と今になって思う。

だから・・・俺は言った――言ったのだ・・・・・・。

伊達か、獅子丸のどちらかならば・・・獅子丸を取れ。と・・・
親子の逢瀬を裏詮索するものなど、早々居ない・・・。いや、その考えに到達する方が難しいとも言えるだろう。
何とでもなる。
理由など幾らでも創れる。
俺はそうやって・・・剣に対して、獅子丸という贄をくれて遣ったのだ。
大儀名文を与え、獅子丸に手を出す理由を与え、お前の欲しいものを、欲しいだけ貪ればいいと・・・・・・
宛ら、神になったかのように、お前の目の前に投じてやった。
伊達の逢瀬で、必死になって獅子丸の恋情を抑えていた剣は、この俺の罪に塗れた言葉をまるで催眠術に掛かった
かのように、従順に受け入れ従った。











独り占め 頼×獅子










北側の、小さな窓しかない・・・・寂しく暗い部屋。
その部屋で、獅子丸は声も立てずに泣いていたのかもしれない。
熱い珈琲を銀の盆に載せて、飛び出した獅子丸の様子を窺いに部屋をノックしてみれば・・・
簡単に扉は開き、俺は中へと迎え入れられる。
少々以外ではあったが・・・部屋の中ほどに置かれた藤製のテーブルセット。その、硝子の小さな丸テーブルに、まだ
湯気を立ち上げる珈琲を盆ごと静かに置いた。

「温かいうちに飲むか?」

獅子丸に平静を装って声をかけ、その幾分沈んだ顔に視線を遣れば・・・青い瞳を取り囲む、その白い水晶体の部分
が赤く充血しているように見て取れた。

(・・・泣いていたのか・・・・)

さも有りなん・・・。などと・・・胸の内で一言、言葉が吐き出される。
デカイなりでも、まだ子供だ・・・。
泣きたくなることもそりゃあ、あるのだろう。
自身の幼少の頃を少しばかり思い出しながら、俺は唇の端を獅子丸に悟られないように幾らか歪めた。

「・・・・・ありがとう」

一言だけであったが、その言葉に何故だか心が救われた。
キシリと軽く音を立てる藤製の椅子に腰をかけて、獅子丸は熱い珈琲に手を伸ばす。
か弱く儚い小動物を…大事に掌で包むように、コーヒーカップを両手で持つ姿が・・・とても可愛らしく思われる。

「温かいね・・・」

珈琲に一口・・・口をつけた獅子丸が、こちらを向いて小さく笑ってみせた。
心臓が・・・意志に反して、通常よりも早い鼓動を刻む。
笑ってみせた獅子丸から目が離せなかった。
何も話かける事が出来ないくせに・・・・俺はその場を離れることもしない。

――獅子丸の傍にいたかった――

呆然と立ったまま、己の胸の内を少しずつ理解する。
そうだ・・・俺は、獅子丸に惹かれている。
この、頼りなげに微笑む獅子丸を抱きしめたいと思っている。
頭で、ゆっくりと認識が定まり始めると・・・俺の脚は獅子丸に向かって一歩を踏み出していた。

「何?」

目の前まで来た俺を見上げ、獅子丸は訝しげに首をかしげ訊ねる仕種を見せた。
俺の顔をひたすら、見つめながら・・・獅子丸はコーヒーカップを盆に戻す。

「・・・ご馳走さまでした」

礼儀正しく、小さく頭を下げる獅子丸。
・・・堪らず、俺は獅子丸を抱き締めていた。
今だけは・・・この胸に抱いていたかった。
訳等ない・・・。獅子丸が、ただただ愛おしかったのだ。
それは、恋人の・・・欲情の抱擁ではなかったから、獅子丸は幾分身を堅くしながらも、一向に抗いはしなかった。

「ど・・・どうしたんだよ・・・金剛寺さん」

少し驚いた声で俺を見上げる。
その表情は、やはり何処か剣の面影を湛えていた。
剣を思ったわけではない・・・。だが、この感情は間違いなく剣に対するものと、連動していた。
この特別な血が、俺を惹きつけるのか・・・・・・・!!
思ってしまえば・・・もう、独り占めしたい欲求は止まらなかった。

今だけでも・・・・・・・

俺は、そっと獅子丸の頬に手をかけて、強張り・・・驚きを隠さない獅子丸の唇に・・・・ゆっくりと己の唇を重ねた。






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愛好会設置したのを期に、続ける事に致しました。
今後は、桃×頼になる予定…(汗)
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